「わたしは死人だ」という衝撃的な書きだしの本書は、1997年6月に村上自身が手がけたWebサイト「tokyoDECADENCE」の主要コンテンツとして生みだされた。金融・経済をテーマとしたメールマガジン「JMM」の発行、引きこもり青年ウエハラの狂気を描いた『共生虫』のオンデマンド販売など、積極的にネットへと進出していく村上が、バーチャルな世界と小説との融合を試み、かつ「死者の視点」を用いるという文学的な実験も行った意欲作だ。 恋人ミキが所持する「MASK CLUB」と書かれた奇妙なカードに興味を抱いた「わたし」は、彼女が通うマンションに忍び込み、何者かに背中を刺され殺される。自分を殺した犯人を探るべく、ときにヤモリの臓器を透かして、あるいは微小な羽虫の背中の上から、密室の中で仮面をつけSMに興じる7人の女たちを死者となって見つめ続ける「わたし」。眼球から脳の神経細胞をたどり、他者の記憶を探るなど、想像力と生物学の知識とを縦横に駆使した死者の描写は、頭がくらくらするほど刺激的だ。倒錯した世界へと引きずり込まれた読み手は、女たちのトラウマが告白される後半部分をよりリアルに感じ取...
「わたしは死人だ」という衝撃的な書きだしの本書は、1997年6月に村上自身が手がけたWebサイト「tokyoDECADENCE」の主要コンテンツとして生みだされた。金融・経済をテーマとしたメールマガジン「JMM」の発行、引きこもり青年ウエハラの狂気を描いた『共生虫』のオンデマンド販売など、積極的にネットへと進出していく村上が、バーチャルな世界と小説との融合を試み、かつ「死者の視点」を用いるという文学的な実験も行った意欲作だ。 恋人ミキが所持する「MASK CLUB」と書かれた奇妙なカードに興味を抱いた「わたし」は、彼女が通うマンションに忍び込み、何者かに背中を刺され殺される。自分を殺した犯人を探るべく、ときにヤモリの臓器を透かして、あるいは微小な羽虫の背中の上から、密室の中で仮面をつけSMに興じる7人の女たちを死者となって見つめ続ける「わたし」。眼球から脳の神経細胞をたどり、他者の記憶を探るなど、想像力と生物学の知識とを縦横に駆使した死者の描写は、頭がくらくらするほど刺激的だ。倒錯した世界へと引きずり込まれた読み手は、女たちのトラウマが告白される後半部分をよりリアルに感じ取ることができるに違いない。 SMをモチーフとした村上の作品は、『エクスタシー』『メランコリア』『タナトス』の3部作や、『トパーズ』と『ラブ&ポップ』など、複数の作品を手にとることで初めて理解を深めることのできるケースが少なくない。また、村上は2000年に行われた柄谷行人との対話で、もはやマイノリティー(少数派)とはいえないSMという行為を「克明に記録してもしようがない」とも語っている。そのうえで書かれた本書は、村上文学の新たな展開を予感させている。(中島正敏) Книга «The Mask Club» автора Рю Мураками оценена посетителями КнигоГид, и её читательский рейтинг составил 7.00 из 10.
Для бесплатного просмотра предоставляются: аннотация, публикация, отзывы, а также файлы для скачивания.
Рецензии на книгу
Написано 0 рецензий